Life in Los Angeles.

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北朝鮮とアメリカの軍事オプションについての考察

トランプ大統領が金委員長と史上初の米朝首脳会談を開催するという発表を受けて、シンガポール政府は6月4日、6・12朝米首脳会談に向けてシャングリラホテルの周辺を「特別行事地域」に指定した。同ホテルが北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とドナルド・トランプ米大統領の会談場所になる可能性が高いものとみられる。
現在会談に向けて米朝の実務陣がシンガポール、韓国、アメリカにおいて慌ただしく最終の詰めの協議を行なっているが、トランプ自身は会談の成果について「良いことが起こるかもしれないし、多くの時間を無駄にするだけかもしれない」と慎重な姿勢を示した。

 

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シリーズはこちらからご覧いただけます。

北朝鮮の核クライシスについての考察 - Life in Los Angeles.

北朝鮮、最後の日。 - Life in Los Angeles.

 

 

さて、今回はあまり想像したくはないのですが、交渉が決裂して実際にアメリカと北朝鮮の間で戦争が勃発した場合どの程度の戦力差があり、どのように戦闘が遂行されていくのか先の湾岸戦争で主敵であったイラクのケースと比較し、米軍が先制攻撃をした前提で考察をまとめてみましたので始めていこうと思います。

 

① 在来戦力

 

1990年に湾岸戦争が勃発した当時のイラク軍は、豊富なオイルマネーによって現在の北朝鮮より有利な旧ソ連および中国製兵器で武装されており、80年代をほぼイラン-イラク戦争に費やしたことから相応の実戦経験を有していました。

 

にも関わらず、アメリカによる空襲が始まるやいなや100時間という比較的短い時間でブッシュ元大統領に勝利宣言を出されてしまうほど、米空軍との戦力差に圧倒されてしまいます。

 

当時のイラク軍に比べても北朝鮮軍の在来戦力は劣勢である反面、米軍の爆撃・補給能力は当時よりも格段に上がっており、アメリカが軍事オプションの行使を決意して持てる軍事力の全てを投入すれば数日のうちに北朝鮮へ壊滅的な打撃を与えることは想像に難しくありません。

 

② 不確定な核戦力

 

イラクとは違い、北朝鮮には核戦力がある為にアメリカへ対する抑止になっているという説もありますが、これは半分当たっていて半分外れている部分があります。

 

アメリカによる先制攻撃を受けた際、はじめに反撃する体制を1次核報復能力とした場合、続けて報復する能力を2次核報復能力とします。

 

この能力を備えるためには、

 

1)核兵器の発射を保証する領土

2)反撃に十分な核弾頭数*1

3)そして一番重要なSLBMやICBMのような核運搬手段*2

 

の確保が必要です。

 

上記の観点から、アメリカに対して2次核報復を遂行できる国は現在ロシアに限られており、運が良ければ中国もギリギリこの中に含まれてくるかもしれないというレベルです。

 

北朝鮮においてはSLBM・ICBMに小型化された核を搭載したかまだ定かでないことと、米軍による先制攻撃後、核施設の崩壊によってカウンターで反撃する1次報復が遂行できるか不明瞭な部分があります。*3

 

上記を前提とした場合、もし北朝鮮による確実な核の抑止があるとするなら、窮鼠猫を嚙む精神で、潜水艦から発射されるSLBMやICBM発射、はたまたは戦略爆撃機に核弾頭を搭載してアメリカへ先制攻撃をすることですが、

 

・核によって米国との平和協定を対等な立場で結び

・金正恩体制の保証

 

を国是としている北朝鮮にとって、このオプションはいまいち現実味が薄いでしょう。

 

もしまかり間違って、俺も死ぬけど、お前も道連れだと考えた金正恩による自殺覚悟の攻撃があればこの限りではありませんが、その時は米露中北による核ドミノで第3次世界大戦というより、第1次核戦争で人類の大半は消滅していることでしょう。

 

韓米連合軍および国連軍の参戦によって、北朝鮮の核施設および潜在的核運搬手段は、アメリカ・韓国の爆撃および特殊部隊の破壊工作で開戦初期にほぼ壊滅させられていると予想できます。

 

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③ 3面を海に囲まれた地政学的な要件

 

 湾岸戦争時、アメリカはペルシャ湾からしか空母や潜水艦を通じた攻撃を仕掛けることができませんでした。

 

しかし、北朝鮮へは周囲を包む3面の海を通じて、空母や潜水艦などが平壌の鼻の先まで展開可能であり、在韓・在日・在グアム・本土の米軍基地からの空軍力を含めた立体的な戦術が展開可能です。

 

韓米海軍は済州島・釜山に駐屯している海軍基地を通じ東西へ同時に海軍の展開が可能である反面、北朝鮮は海上封鎖によって海軍戦力も分散してしまうことで状況がより一層不利になっていきます。

 

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金正恩は東西からトマホークミサイルを打ち込まれ、南から空軍力が展開されると、身動きが取れなくなるというわけです。

 

④ 韓国軍の存在

 

前回のコラムでもお伝えした通り、韓国軍は世界でもトップクラスの屈強な戦力を有しています。

 

湾岸戦争では周辺国がイラク憎しで道を開け協力する程度で、西側諸国の兵力参戦数はそこまで大きいものではありませんでした。*4

 

しかし、アメリカが北朝鮮に空襲を強行し全面戦に移行した場合は、当然北朝鮮と対峙する韓国軍も余力を残さず北朝鮮への攻撃に加わることになります。*5

 

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そうなれば、アメリカ一国でも対処が難しい北朝鮮にとって自分の首を取りに来る韓国軍の参戦が泣きっ面に蜂となるのはいうまでもありません。

 

⑤ 中国の参戦可能性が低い

 

中国は、北の挑発による報復に関しては中朝友好協力相互防衛条約は適用されないと明言しています。

 

金日成、金正日の頃には蜜月だった以前と違い、3代目として実績の何もない金正恩が恐怖政治で権力基盤を盤石にするため、親中派閥の親玉だった叔父の張成沢を粛清した頃から中国との関係は冷え切ってしまいました。

 

北朝鮮はアメリカに対する自身の立場を代わりに述べてくれる*6のみならず、世界屈指の軍事同盟である韓米同盟からの緩衝地帯として大事な存在ですが、金正恩に対する影響力はほぼ皆無と言っていいほどコントロールがきかないところまで来ており、習近平も板挟みで頭が痛いところでしょう。

 

特に最近の中国は経済状況も沈滞気味で、足元のおぼつかない中で外部の不安要素を背負い込む理由が見当たらず、先のイラク戦争で見せつけられたアメリカの圧倒的な威力が未だ肌感で有効なことも手伝ってか、今全面戦争を起こせば中国の莫大な被害は免れないと明確に認識をしています。

 

上記の理由から戦略的に重要なパートナーとはいえ、国際社会から孤立し、いつまで持つかわからない北朝鮮のために中国が多くのものを失いながら全面的にアメリカと衝突する可能性は薄いのではないか、というのが内外の論でしょう。

 

⑥ 最悪な補給状態

 

イラクは豊富なオイルマネーのおかげで、米軍の攻勢をしのげる経済的余裕がありましたし、後々アメリカを苦しめることになる反政府勢力ゲリラの資金源もブラックマーケットで取引されたオイルでした。

 

しかし北朝鮮は、中国からの援助を除けば自力で経済が立ちゆくか不安な状況です。

 

物資*7や資金に乏しいために開戦後、戦闘が長期化すれば太平洋戦争時の日本と同じく自滅への道を歩んでいくことになるのは火を見るよりも明らかです。

 

事実北朝鮮による全面戦争のシナリオには、3日の短期決戦で希望的観測もここまでいくと映画撮れそう米軍、韓国軍を掃討して7日のうちにソウルを占領するとあります。

 

損得勘定で考えれば戦争することに全くメリットはありませんが、これまでニクソンやカーター、クリントンやオバマと数々のチキンゲームでアメリカに勝ってきた北朝鮮だけに、相変わらず不倶戴天で強気を崩していません。

 

もし一つ誤算があるとすれば、これまでは比較的まともな政治家を相手にしてきたからこそ成立したゲームだったはずが、今回の相手は何をするかわからないトランプだということです。

 

どちらにしても世界最強のアメリカと、巨大な軍事国家である北朝鮮が開戦すれば米朝のみならず、関係各国が全て無傷ではいられない悲惨な戦争となることは必須ですので精神状態がけっして大人であるとはいえない金にもトランプにも、できる限り衝突を避けて対話で解決することを促したいと思うばかりです。

 

世界平和を守れるか否かのカウントダウンが今始まるかもしれませんので、間違ってスイッチを押さないように気をつけたいところです。

 

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*1:現在小型化成功し、60基程度と推定

*2:ほぼ完成に近づいており、性能は高い

*3:北朝鮮は国土が高度に地下要塞化しており、もしかしたら相当な確率で反撃ができる可能性を残している

*4:大義も証拠もなかった為に正規参戦促せず、有志連合という形で募集した

*5:左派政権の文大統領は戦争しないと明言しているが全面戦になれば当然自動介入

*6:十分すぎておまけがつくくらいに反米キャンペーン張ってくれる

*7:実は北朝鮮は世界でも稀に見る地下資源大国なのだが、開発資金がないため利用ができていない