Life in Los Angeles.

ロサンゼルスに住む永住権者の冒険と、アメリカの日常を書きたい気分で徒然なるままにお届けします。

黒いくるま

 

 

くるまは良いんだ。
 
君に会いたくなったら、海にいけるから。
 
ロスの喧騒を抜けて、淑女のマンハッタンビーチまで。
 
悲しみを乗せて走るんだ。
 
 
僕の心と君のぬけがらを乗せて。

 

【成果コミット型英会話ALUGO】

不惑にして人生をしる (1:序章)

怒)......マジかよ

 

ロサンゼルス警察に電話をするために慌ててiphoneを取り出し開口一番、口をついて出た言葉は、予見のない事態に遭遇した場面で不意にでる、すなわち知性を無視しても驚きが表現できる、虚無感の基本の基の字を忠実に捕まえた中学生のそれだった。

 

上機嫌に帰宅して鍵を開けた途端、自分の身に何が起こったのか整理するのにしばし時間が必要だったが、事態の把握に伴って、細かい気泡のような怒りが下腹部からふつふつと湧き上がりつつあるのを後頭部のあたりで確かに感じていた。

 

警官が到着するまでの間に、説明のため一日を振り返る必要がある。

 

遡ること数時間前、その日はいつもと変わらぬ天気の良い昼下がりの日曜日だった。

 

前日の深酒の余韻を残し日曜の朝から退屈を持て余していたハウスメイトを連れ添って、海賊が七つの海をはるかに飛び越えてあの世とかこの世とか、はたまたは時空を飛び越えて大活躍する冒険活劇を見に行こうと誘ったのは遅めのブランチを済ませた後だったように思う。

 

「パイレーツ・オブ・カリビアン、今日からだったよね?」

 

このところシリーズを通して、大いなるマンネリの様相を深めてはいたが、世界で初めて封切りができる楽しみを従えて愛車のエンジンを優しくふかし目的のシアターへと向かう。

 

V6サウンドの子気味良い振動と、フルオープンにしたウィンドウから軽やかに滑り込むロサンゼルスの初夏の風を頬に感じながら、前作のおさらいと昨日の宴会の余韻を15分ほど共有した頃に我々は目的のシアターへと到着した。

 

そこは街のど真ん中にそびえ立つ、いかにもアメリカ然とした大型のショッピングセンターにあるシネマコンプレックスだ。いわゆる皆がアメリカ、と聞いて真っ先に想像が出来るであろう遊園地かと見間違うほどの巨大な複合型商業施設である。

 

映画館の位置する狙った階に駐車をスムーズに済ませると、予約した上映時間までの間にほぼ必ず立ち寄るヨーグルトのアイス屋へ滑り込み、アーモンドやフルーツなど各々お気に入りのトッピングをしこたまアイスに乗せて席についた。

 

「..さん、知ってます? また昨日大家がこっちにきて大騒ぎして帰ったんすよ」

 

「またか、今回はなんだって?」

 

「シャワーの蛇口を誰かが強く締めすぎて、水がちょろちょろ流れてるんだ! 何回同じこと言わせるんだってえらい剣幕で怒鳴り散らして帰ったんす」

 

「ははは、あのおっさん、そろそろ頭の血管きれんじゃねーかな」

 

前田というこの界隈の日系社会では有名なきちが。。もとい、個性的な大家は我々の住むハウスの隣に住み、住人とのりこという自分の嫁に難癖をつけては怒鳴り散らすのを日課としていた。

 

女性を除いて他人と住むことがなかった上に、少し神経質気味で家では静かにまったりと過ごしたい私がまさしく赤の他人と一つ屋根の下に住むシェアハウスに入るなどということは自分でも信じられないことであったが、

 

元々滞在していたサンフランシスコから引っ越して来る際、好みの部屋を探す前提でひと月だけと部屋も大家も見ずに決めてしまったがゆえに、引っ越し一日目にキャラが濃すぎるこの前田とのりこから、でむぱご丁寧な挨拶をいただいた時には目がクラクラしてどうやってキャンセルをしようかとばかり考えていた。

 

幸いにも前田は同じハウスには住んでおらず同居するハウスメイトと気が合ったこともあり、なんだかんだ言いながらもそこでの滞在はこの日で1年を迎えようとしていた。

 

 「でもあのおっさん、俺らにはすげえうるせーのに..さんだけには何も言わないすよね。何かあったらいつも2秒で論破してますもんね」

 

「まあ歳もそんなに離れてないし、そもそもが屁理屈ばかりで論拠がないからな」

 

「間違いないすね、はははは」

 

渡米後は時間を作って必ず映画館に足を運び、趣味と英語の勉強を兼ねて世界でもっとも早い最新作の封切りを楽しむことにしている。

 

サンフランシスコで初めて観た映画は「スターウォーズ・フォースの覚醒」だったが、その後いくつも視聴を重ね、人生のベスト映画ランキングに登場することとなった「LA・LA・LAND」を見る頃には英語のヒアリングも滞在年数相応に上がってきていた。

 

 

「そう言えばジャック・スパロウと片目のウィリーがどっかのシリーズで合間見えてスピンオフでグーニーズが復活するとかしないとかでマジ激アツなんだけど、ワーナー、2作らないんだったらディズニーに版権売って欲しいよな」

 

などとたわいもないことを話しているうちに上映時間がさし迫り、我々は少し歩いてシアターの中へと進むと、大盛りのポップコーンを片手にスクリーン中央少し後ろのベストポジションを確保した。

 

ポップコーンはまだしも、バケツサイズのソーダ*1の凶悪な極太さに毎度のことながら驚かされるが、不思議なことにエンドロールが流れる頃にはあのプールと見間違うばかりの砂糖水が綺麗さっぱりなくなっているのである。

 

はて、あの大量な液体は果たしてどこに消えていくのであろうか? 

ソーダを見るたびに、今世紀最大の謎が深まっていくのである。

 

それはさておき、本編が開始される前に上映されるトレーラーも映画館に足を運ぶ理由の一つだ。

 

来春とか、来夏公開の予告編を見ながら、プロットを想像してああでもないこうでもないと話しているうちに照明が落ち、今では知らない人はいないであろうくらいに有名となったテーマソングに乗せてお馴染みのメンバーがスクリーンをジャックしていく。*2

 

この映画特有のマンネリと呼ばれる所以で、正直オープニングの15分は寝落ちして覚えていないが、1時間も過ぎた頃から急に展開が代わり最後に到るまである程度落ち着いて見れていたように思う。

 

じゃじゃーんっ。

 

*1:アメリカでは炭酸飲料をこう呼ぶ

*2:シャレ...ワカリマスカ?

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